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第8回 寡黙なエース・井川慶

 井川慶投手のニューヨーク・ヤンキース入団会見、皆さんご覧になられましたか? トレードマークの長髪もバッサリと切って、一生懸命英語で挨拶してましたね。今回は、この井川慶についてお話ししたいと思います。

 実は私と井川の間には不思議な縁がありまして、まず干支が同じなんですよ。彼は79年生まれの未年、私は55年生まれの未年です。血液型もO型で一緒です。そして極めつけは、生年月日。なんと、私も井川も7月13日生まれで同じなんです。不思議な縁もあるものですね。

 彼との出会いは、私が広島の二軍監督に就任した98年のことでした。水戸商業から活きのいい左ピッチャーが入ってきたというので、同じウエスタンリーグということで見てみましたら、まあ随分ボールの速いコだなと思いました。それが第一印象ですね。それで、ウエスタンというのは試合の後に練習を行うものですから、私も井川の練習風景を随分見させてもらいました。ボール一箱置いて、二塁ベースの辺りでノックですよ。動きは悪かったですけど、黙々とボールを追ってましたね。

 2003年に私が阪神のバッテリーコーチになった時には、井川も随分成長してました。それでもバッティングがダメで、私は「バッティングがダメだと先発で勝てんよ」と言ったんです。そしたら、コッソリとマシンでバスターやらバントやら練習してましたね。よく練習するコでしたよ。

 井川は寡黙で、気が弱そうに見えるかもしれませんけど、内に秘めたものは熱いですよ。アグレッシブと言うんですかね。ある試合で不甲斐ないピッチングをしてしまった井川が、ベンチ裏に早足で駆け込んだと思ったら、椅子やら何やら投げつけて、大暴れしよったことがありますよ。「ダッペ、ダッペ」って言われて、田舎の大人しいコ、みたいな印象がありましたけど、これほど勝負に熱くなるのか、という驚きがありましたね。

 あまり喋らないというイメージも、あくまでイメージですよ。本当はよく喋ります。マスコミの前であまり喋らないだけでね。それも、キッカケがあるんです。巨人戦のヒーローインタビューで、「ウエスタンでオリックスに投げてた時と同じ気持ち」と言ったんです。一軍でも二軍でも、精一杯投げるのは同じという意味で言ったんですがね、これが曲解されてしまいまして、巨人は二軍レベルだというように書かれてしまったんです。これで井川は、あまり喋らなくなってしまいました。真意を伝えてもらえないことの怖さといいますか、余計なことを言わないようになったんですね。最近はテレビにもよく出ていますから、マスコミ嫌いというわけではないですけど、そういう気持ちも吹っ切れたんでしょう。根が純真だから、こういうこともあるわけです。

 井川は野球を中心にしたものの考え方ができる選手で、あまりにも野球を中心にしてしまうものだから、色々と誤解されることも多いです。翌日が登板日だから優勝のビールかけに来なかったなんていう話は、いい例ですよ。でも、これも野球を大切にしているからで、チームから浮いているなんてことは全然ありません。藤川球児辺りと切磋琢磨してね、うまくやってます。井川は、意外に順応力があるんです。いろいろチャレンジして、自分に合わないものをスパッと切ることができる。メジャーでも、自分に合ういいものだけを取り入れることができます。それに、大の嫌煙家ですからね。メジャーのノースモーキングのロッカールームは気に入るんじゃないでしょうか。いち早く英語も勉強してるみたいですしね、すぐにうまくなるでしょう。

 さて、井川はメジャーで通用するのかしないのか? 皆さんも大きな関心があると思います。私から見ますと、これだけは絶対通用するというものは、ローテを守る体力です。これは絶対です。井川はデビュー以来、体力的な問題でのリタイアを経験したことがありません。走るのは遅いですけど、いつまでも走れる体力があります。放っておけば、百キロでも走れそうなほどですよ。

 技術的な問題になりますと、縦の変化球の精度がキーになりますね。メジャーは速いボールに対処できる選手は多いですけど、落ちるボールには未だに弱いです。野茂英雄のフォーク、大塚晶則の縦スライダー、井川であれば伝家の宝刀チェンジアップの出来が全てを決めます。ここ数年、井川のチェンジアップはうまく抜けていません。だから少し心配なんですが、これが抜ければ2ケタは間違いないでしょう。

 さて、どうなるんでしょうかね。井川投手、期待してますよ!

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