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第13回 野球におけるコミュニケーション

 突然ですけど、皆さんはピッチャーとキャッチャーのコミュニケーションというものを、どう考えておられますか? 別にバッテリーには限らないんですが、野球というチームスポーツの中で、コミュニケーションは非常に大事なんですよ。今回は、このコミュニケーションという言葉を通じて、2人の選手についてお話しさせていただこうと思います。

 バッテリーのコミュニケーションは、試合前にはいくらでも時間が取れますが、試合中になると非常に制限されます。方法としては、サインとジェスチャーでしかコミュニケーションできません。サインと一口に言いましても、球種からコースから、クイック、牽制など、色々なサインがあります。こうしたサインの使い分けでキャッチャーはピッチャーと会話するわけです。

 このコミュニケーションという意味では、巨人の阿部慎之助が非常に成長してきました。キャプテンに任命されたこと、更に第72代の4番打者になったことも関係していますかね。存在が大きくなりました。

 キャッチャーとしては、表情が豊かになったんですよ。ピッチャーがいいボールを投げた時、抑えた時はヨシ、といういい顔をします。外から見ててもほとんどわからないようなコミュニケーションが多いんですが、とにかく投手陣とうまく付き合っていますよ。こうした阿部の苦心のリードが効いて、巨人の防御率はセ・リーグでトップを記録しているわけです。

 投手陣が好調の中で、豊田だけは辛い思いをしてきました。西武では球界最高と言ってもいいクローザーでしたけど、巨人に移籍した去年が腰痛などもあって不調でした。今年も調子は今ひとつで、4月20日の阪神戦、延長12回に登板して、3点のリードをひっくり返されてのサヨナラ負け。正直私は、あそこで豊田はもう終わりだと思いました。でも、この日の夜に阿部が豊田の部屋を訪ねて、色々話し合ったらしいですよ。詳しい内容は私も知りませんけどね、とにかく豊田を元気付けたということです。あれから2ヵ月、豊田も全盛期を彷彿させるボールが戻ってきましたね。先日のヤフードームでのソフトバンク戦では、1アウト満塁から松中をインハイのストレートで、柴原を低めのフォークで三振に仕留めました。こうして復活できたのも、一つには阿倍との信頼関係があったと思うんですよ。もし阿部が投手陣とのコミュニケーションをおざなりにしていたら、現在の巨人の好調はなかったと断言できます。

 もう一人は、楽天の山﨑武司についてです。山﨑(武)が誰とうまくコミュニケーションを取っているかといいますと、実は野村監督なんですね。やはり野村監督ほどの人になれば、選手たちも近づき難いと言いますか、萎縮してしまうところがあるんですよ。でも、山﨑(武)のようなベテランになれば、野球もよう知ってるわけですし、野村監督にも物を言えるわけです。野村監督も「山﨑さんに頑張ってもらわないと」とか、ジョークを言ったりしています。こうやって山﨑(武)が野村監督とうまくやっている場面を見て、他の若手たちも「ちゃんと野球をやってれば、監督も怖くないな」となるわけです。一方で、山﨑(武)は面倒見のいい兄貴分体質ですから、若手ともうまくコミュニケーションしています。厳しいけど優しい、と言いますか、そんな感じのタイプだそうですよ。

 さて、この山﨑(武)ですけど、今シーズンはホームランと打点でリーグトップ。とんでもない成績を残しています。今までと比べて何が違うかと言いますと、タイミングの取り方に余裕が出てきましたね。苦手のインハイをさばけるようになりました。これまで中日、オリックスと渡り歩いて、野球ができる嬉しさ、楽しさというものをよくわかっている山﨑(武)です。ダメになったら辞めればいい、という開き直りができるようになりましたね。この気持ちの余裕が、いい結果に繋がっていると思います。

 私が始めて彼と対戦した時のことをお話ししますと、アレはナゴヤ球場だったと記憶してますけど、とにかく粗いバッターだった印象が強いです。こう言ってはなんですけど、プロで通用する選手とは思えませんでした。私の得意の「囁き戦術」で、簡単に討ち取った覚えがあります。でも、そこから研究と練習を重ねて、これほどの選手になるとは驚きですよ。

 思い起こせば、彼は身体の強さがものすごいんですね。乱闘の時に私は山﨑(武)と腕が絡んだことがありますけど、とんでもない力でした。「こりゃ勝てん」と思いましたよ。相撲取りなんかは、こういう体つきなんだろうと思いました。後から聞いた話では、山﨑(武)は中学まで相撲をやってたらしいですね。なるほどと思いましたよ。

 この腕っぷしの強い山﨑(武)が、ベテランとして監督とも若手ともうまくコミュニケーションを取っている。これが、楽天の好調の一つの要因じゃないかと私は睨んでます。そう言えば、山﨑(武)もプロに入った頃はキャッチャーでしたね。中村武志という素晴らしいキャッチャーがいたために、野手に転向したんですが、それでもキャッチャーだった頃の経験が活きているんじゃないでしょうか。

 私がキャッチャーだったから言うわけじゃないんですけど、キャッチャーというものはこれほど大事なんです。皆さんもこれからは、阿部の繊細な気配りや山﨑(武)の豪快な気配りを気にしてみてください。

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