パ・リーグは埼玉西武ライオンズの優勝が目前という中、ソフトバンクの王監督が退任という寂しいニュースも入ってきました。私も王さんが当時ダイエーだったホークスの監督に就任した95年、コーチとしてお世話になりました。長い間球界を背負って下さった王さん、本当にお疲れ様でした。パ・リーグは激動、という感じですが、セ・リーグも負けてはいませんね。巨人が遂に阪神と並び、3位争いでも広島と中日が熱戦を繰り広げています。特に広島カープは、今年が市民球場でのラストイヤーです。私も長くお世話になったこの球場での、思い出話をさせていただこうかと思います。
広島市民球場は連日の大入りで、いま広島は大変盛り上がっています。これほどの盛り上がりは初優勝の時以来ですよ。カープもその声援に後押しされて大変な力を発揮しています。フォアボールひとつ、相手のエラーひとつですごい歓声です。相手ピッチャーも動揺しますし、カープの選手も「行けるぞ」となるんですね。阪神も甲子園の大声援を受けて強くなりましたけど、やはりファンの力というのは偉大だなと改めて思いました。
私が初めて広島市民球場に行ったのは、小学校低学年の時でした。昭和40年ぐらいでしたかね。とにかく嬉しくて、ライトスタンドからレフトスタンドまで何度も走り回りました。試合が始まると、芝生はものすごくきれいでしたし、ピッチャーのボールも見たことがないぐらい速かった覚えがあります。外野にうどん屋さんがあるんですが、そこのうどんもおいしくて、プロ野球の球場、というものにとにかく感動しました。別世界みたいでしたね。
高校に入ってから、グラウンド整備で初めてグラウンドの土を踏みました。これがカープの選手たちが試合をしている土かと、これまた感動しました。黒土をわざとジャージにつけて帰りましたよ。
やがて私はカープに入団し、1年目の7月に一軍で初出場しました。守りからの出場だったんですけど、「タツ、行くぞ」と言われた時には足が震えましたよ。レガースをはめようとしてもうまく行かないくらいでした。ホームまでダッシュで走っていったら、スタンドから大歓声が挙がりました。それでようやく落ち着きましたね。
プレーでは色々なことを学びました。狭い球場ですから、簡単にホームランが出ます。かと言って、インサイドを捨てて外ばかりで勝負しても、外のボールをスタンドまで持っていかれることもあります。だから何とか揺さぶらなくてはと、リードを勉強しましたよ。
ファウルグラウンドも狭いものですから、打ち取ったと思った当たりがファウルになったりもしまして、すごく神経を使いました。他の球場に行ったときは伸び伸びやれましたよ。
でも、逆に狭い土のグラウンドの球場だからこそ、色々なドラマも生まれました。イレギュラーはあるし、意外なサヨナラホームランもありました。私なんかでもサヨナラホームランの経験があるんですから。今のヤフードームでは絶対に打てないと思いますよ。
外野フェンスも低いので、よじ登ることができます。音重鎮がフェンスを登ってホームランボールを捕ったというスーパープレーを、ご記憶の方も多いんじゃないでしょうか。もうフェンスを登れる球場は広島しかなくて、カープの選手は時たまフェンスを登る練習もしたものです。これからはそういう練習もなくなるんでしょうね。
私にとっては引退試合も印象的です。巨人戦だったんですけど、巨人のキャッチャーだった村田が「ご苦労さんでした」と言ってくれて、それで涙が溢れてしまいました。最終打席はバットが折れてしまって、その折れたグリップを手から離せませんでしたね。持ったまま、一塁に走りました。あの時の声援も忘れられません。
他にも、私の盟友・大野豊が引退セレモニーで「我が野球人生に悔いなし」と宣言したり、衣笠祥雄さんが連続試合出場の世界記録を作ったり、前田智徳が2000本安打を打ったり、色々なことがありました。中でも一番忘れられないのは、炎のストッパーと呼ばれた津田恒美のことです。
津田が最後に投げたのは、広島でした。巨人戦で、もうその時には既に大病に冒されていたんですが、何事もないように投げていました。最後に原辰徳に三遊間を破られたシーンを、今でも覚えています。津田は打たれた翌日、誰も来ない内からファンに申し訳ないという思いから外野の階段を全部走って、ファンに謝罪の気持ちを表しました。それから全体練習に臨んでたものです。その階段も、もう無くなってしまうんですね。
91年、カープが最後に優勝した時に、グラウンドでビールかけをしました。土のグラウンドだからできたことで、人工芝でも天然芝でもできません。匂いが残ったり、痛んだりしてしまいますからね。あの時の喜びはかけがえのない思い出です。
来年からの新球場では、もうグラウンドでのビールかけはできません。でも、カープにはまだそのチャンスが一度だけ残っています。是非、クライマックスシリーズを制して日本シリーズに行ってほしいですね。
広島市民球場の土には、アマチュアからプロまで、様々な人たちの汗が染み込んでいます。その、色々な思いが込められた土の上で、最後に歓喜のビールかけを見たいと思います。
- スポーツトップ
- 国内プロ野球
- プロ野球コラム
- コラム モノが違いますね
- 記事全文
注目情報
国内プロ野球 コラム モノが違いますね
第28回 広島市民球場の思い出
[PR] お役立ち情報
特集ピックアップ
PR
MSNスポーツ - コラム一覧
PR
このページ上に表示される記事内容、あるいはリンク先の記事内容はMSNおよびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
Copyright © International Sports Marketing Co.,Ltd. All rights reserved.
掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。著作権はISMに属します。




