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第29回 岡田監督の5年間

 今年も残すところクライマックスシリーズと日本シリーズだけになり、ほとんどの球団がオフシーズンに入っています。ポストシーズンが盛り上がりを見せる中、寂しいニュースも入ってくるのがこの時期の特徴で、2人の名将がチームを去ることになりました。

 言うまでもなく、その2人は王監督と岡田監督です。王監督は体調も芳しくなかったようで、そんな中でも長きに渡って球界を支えてくれた王さんには、言葉もありません。本当にお疲れ様でした。

 一方の岡田監督ですけど、色々苦労も多かっただろうと思います。何しろ、星野さんから優勝チームを託されたんですから。そんなチームを受け取ったら、周りは「勝って当然」と思うでしょう。下位チームを任されても苦労は色々ありますけど、強いチームを任されることも大変なんです。プロ野球の監督というのは、とにかく気苦労が耐えないものなんですよ。それでも5年間、常にチームを優勝争いに導き続けた岡田監督の手腕は、見事としか言いようがありません。

 岡田監督が阪神に残したものは、4番・金本と守護神・藤川でしょう。岡田監督の考え方として、4番は全試合に出るのが条件、というものがあります。監督自身、現役の頃から途中交代が嫌いでした。全試合、最初から最後まで試合に出てこそレギュラーという考え方の人でした。代走とか守備固めというものも嫌いでしたね。

 藤川球児を日本最高のクローザーに育て上げたのは、岡田監督の最大の功績でしょう。能力の高さは見せていたもののなかなか実力を発揮できなかった藤川を、短いイニングならという発想で配置転換しました。そして、今や押しも押されもしない日本一のストッパーに成長させました。

 藤川も岡田監督が信頼して使ってくれたことに恩義を持っているでしょう。岡田監督の辞任が決まったとき、藤川は「岡田監督以上の監督なんておるんかな」と言ったそうですね。この2人の間にある絶大な信頼感が窺えました。

 その藤川が、クライマックスシリーズの最後でウッズに決勝2ランを浴びてしまいましたけど、これも岡田監督らしい采配だったと思います。9回2アウト、ランナーは三塁。ここでウッズとなれば、歩かせてもいいはずです。でも、岡田監督は徹底した人なので勝負しました。勝負するなら勝負する、逃げるなら逃げる。すごくシンプルに、ハッキリと方針を示す人なので、あそこは勝負に徹したんでしょう。くさいコースを突いて、なんていう考え方は岡田監督にはありません。そういう潔さがあるからこそ、選手もついていくんでしょうね。

 選手の使い方もそうです。岡田監督は選手を責めません。その代わりに、パッタリと使わなくなります。責めてもなんにもなりませんからね。

 今季の阪神は、最大13ゲームの差をつけながら巨人に逆転を許し、岡田監督はその責任を取って辞任しました。しかしこれも、13ゲームをひっくり返せるだけの力が巨人に元々あったということです。本来なら巨人がそれだけのゲーム差をつけてもおかしくないぐらいの力を持ったチームで、むしろ阪神はよく頑張ったと思います。それでも、13ゲーム差をひっくり返されての2位というのは、もっとファンや選手から不満の声が挙がりそうなものです。それなのに、最終戦で岡田監督はファンの大歓声の中で胴上げされました。それだけ岡田監督が、ファンや選手に愛されていたということでしょう。

 今季の岡田監督は、本当に悔しい思いをしたと思いますけど、負けたことで2つのものを得たんじゃないでしょうか。

 1つは、物事は簡単には行かないという経験です。岡田監督は早大から阪神というエリートで、現役時代の最後にはトレードも経験しましたけど、概ね順風満帆の野球人生でした。こういう屈辱的な敗戦から得るものも、確実にあります。これからの岡田監督の人生の中で、大きな助けになるんじゃないでしょうか。

 もう1つは、選手たちの本当の気持ちでしょうね。選手たちが本当の感謝の気持ちを持っているからこそ、あの胴上げがあったんです。これまで阪神を率いてきた5年間、選手がどういう気持ちを持って戦っていたか、岡田監督もわかったでしょう。

 私は家康公の遺訓というものが好きなんですけど、こういう一文があります。「勝つことばかり知りて負けることを知らざれば害その身に至る。己を責めて人を責めるな、及ばざるは過ぎたるより勝れり」。どうでしょう? 岡田監督にピッタリの言葉じゃないでしょうか。

 岡田監督は大学から阪神に入り、それからオリックスの二軍監督などを経て阪神の指揮官になりました。22歳から28年間、一度もユニホームを脱がずに今年まで来ました。球場の外で勉強するという考え方はなく、ユニホームを着ながら勉強してなんぼ、という考えの人でした。

 いざ監督を辞める、一旦球界から離れるとなっても、球団から「いつかもう一度やってほしい」と慰留されています。周囲から必要とされ、慕われ、助けられる。何とも羨ましい野球人生じゃないですか。

 これも岡田監督の人柄、人徳なんでしょう。岡田監督がこれまでやって来たことが、今の岡田さんの足場を作り上げたんです。いいですか、皆さん? 己を責めて人を責めるな、及ばざるは過ぎたるより勝れり、ですよ。

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