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第32回 平常心の養い方

 ちょっと遅いですけど、皆さん明けましておめでとうございます! 2009年が始まって、選手たちが自主トレに励んでいるニュースが連日報道されてますね。シーズンが終わった時点で次のシーズンはもう始まっているんですけど、それでも年が明けると、改めて「よし、やろう」と思うものです。

 最近の自主トレは、みんな沖縄だとかハワイだとか、暖かい所に行くことが多いみたいですね。でも私らの頃は、寒い所に行くことも多かったんですよ。故障を抱えている人は暖かい所、元気な人は寒い所という感じでね。

 私なんかも、よく湯布院に行きましたよ。雪の中でランニングして、後で温泉に入ったりします。広島の先代オーナーだった松田耕平さんが温泉の効能をいち早く取り入れまして、合同自主トレでは強制的に温泉でのトレーニングに行かされましたね。

 寒い所から始めて、次第に体を作って暖かい所に移動していくというのがカープのやり方でした。最近は最初から暖かい所で、時代は変わったなあと思いますよ。

 暖かい寒いにも一長一短ありまして、暖かい所で始めると、体が早くできたと勘違いすることもあるんです。逆に寒い所では、じっくり体を作れるけど、コンディションが悪いと調整が遅れてしまいますね。

 こうやって体力面を鍛えていくのが自主トレですが、同時にメンタル面も鍛えて行かないとシーズンを乗り越えることはできません。

 精神修養と言いますか、過去には石毛宏典が陶芸をやったり、マック鈴木が滝に打たれたり、メンタルを鍛えようとプロ野球選手は色々な修行にも取り組みます。中でも一番の荒行は、皆さんもよくご存じだと思いますが、阪神の金本や新井が毎年行っている護摩行でしょう。

 私は実際に現場を見たわけではありませんけど、何メートルにもなる火柱を前にして座禅を組み、2時間近く念仏を唱え続けるといいますね。修行が終わった後にインタビューを受けている新井の顔が火傷だらけになっているというシーンもご覧になったんじゃないでしょうか。コレはもう壮絶ですよ。

 新井が護摩行を始めた時、私は感想を聞いてみました。「どんなピンチでもチャンスでも、あの修行を思い出せば平常心になれる」と言っていましたよ。でも、別の機会に修行直後の感想を聞くと「来年またこの修行があるかと思うと怖い」とも言ってました。修行が終わったばかりなのに、もう来年の修行が怖いと言うんです。それほど壮絶なものなんでしょうね。私もやってみたらどうだと言われる方もいらっしゃるかもしれませんが、とてもできそうにありませんよ。

 それでも、私だって高校時代から精神修養は行ってきました。高校時代で思い出深いのは真剣の刃渡りですね。刃を上に向けた真剣の上で、身動きせずに立つんです。少しでも動いたら足の裏がズバッと斬れます。実際に斬れたのが何人もいました。

 他には腹式呼吸もありますね。呼吸を整えて平常心を保つんですが、きちんと呼吸できているかを試す方法がありました。お腹の上に線路の枕木のコンクリートを乗せて、上からハンマーで叩いてもらうんです。お腹に力が入っていればコンクリートは真っ二つになりますが、呼吸が乱れていれば割れません。この呼吸を、いざという時に実践するんです。

 それ以外にも瞑想をしましたし、日輪信仰もしました。一日一回、お日様に手を合わせて「平常心でやらせてください」とお願いするだけでしたけど、まあ色々やりましたよ。

 なぜここまでやるかと言うと、やはりプロ野球選手は不安になるんです。あの王貞治さんでさえ、自主トレの時には「今年は一本もホームランを打てないんじゃないだろうか」と不安になることがあったそうです。そういう不安を退けて、ピンチでもチャンスでも普段通りの力を発揮できるように、日頃から精神面を鍛えておくわけです。

 心技体、ということでしょうかね。自主トレで心を鍛え、体を鍛え、キャンプで技を鍛える。それがプロ野球選手の、開幕までの仕事なんです。そうして100%の状態に持っていって開幕を迎えて、初めてプロだと言えると思いますよ。

 練習は不可能を可能にしますし、苦しいことに立ち向かった人が勝つんです。だから今は苦しくても、選手の皆さんは頑張ってください。苦しいトレーニングと修行を乗り越えて、胸を張って「自分はプロ野球選手だ」と言えるように。

 仰ぎて天に愧じず(はじず)、という言葉があります。皆さん、神様は見ていますよ。

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