いよいよ星野JAPANの決戦が近づいた。8月2日、星野JAPANは改めて再スタートを切った。オールスター明けということもあり、選手の疲れを考慮してその日は軽めの練習で上がった。長嶋前全日本監督も顔を見せ、激励をしていた。私が星野さんに「やっと来たという感じですか」と聞いたところ、「少し時間が足りん」と不安めいたことを話された。指揮官というものは大体マイナス志向から入る人が多く、どんなに完璧でも不安が先に立つものだと思う。そして、星野JAPANの現在の状態は完璧なものではないということが気がかりだ。
始動初日、ブルペンに一人も入らず、投手陣は軽めの調整で上がった。監督が一番見たかったのはピッチング練習だったらしく、肩透かしを食らった恰好になった。5日にはジャイアンツの二軍と練習試合を行う予定だったが、突然の雷雨のため中止になった。実戦のカン、ゲームのリズム。内容はともかく、試合だけはしたかったはずだ。
練習を打ち上げ、強化試合に入った。調整の遅れが、強化試合にそのまま出てしまった。初戦はダルビッシュが本調子でなかったものの、当然バントという場面で強攻策に出、それが功を奏して勝利を収めた。しかし2戦目は、川上が大乱調で、11点を奪われる大敗。これには、ファンの方々も不安になったことだと思う。
投手陣は五輪で使うボールにも慣れたはずだったが、やはり試合と練習では、感覚は大きく違う。我々選手はオープン戦の時、いくら一生懸命やってもそんなに疲れるということはない。しかし、開幕戦を一試合終えただけで、次の日に体の張りや疲れが出る。本番とはそういうものなのだ。
強化試合も本番前ではあるけども、本番よりは多少力が抜けているはずだ。しかし、あれだけコントロールを乱し、取りに行ったストライクを痛打されてしまう。シュート回転のボールが多い。体の開きが早く、ちょっと突っ込んだ状況で投げているということだ。この開きは微調整で修正できるはずだが、北京のマウンドは日本のマウンドより少し高く、傾斜がきついという情報がある。今のまま日本のピッチャーが行くと、日本でのマウンド以上に体が突っ込むようになるだろう。シュート回転の力のないボールが高めに浮き、長打を打たれてしまうかもしれない。第1戦がキューバということを考えれば、それまでに微調整を終えていなければキューバ戦を落としかねない。
フォームの修正、ボールへの慣れ、そして何よりも、いいイメージを持って本番に臨めない。ここに来て課題が多いのは、何とも心配である。
投手陣の中で、北京出発前までにいい状態だったのは、国際試合に慣れきっている上原と和田ぐらいだろう。彼らはいいイメージで本番に臨めるだろうが、他の投手たちはどうか。星野さんも、頭が痛いところだと思う。
一方野手陣は、連携や牽制のようなチームプレーは無難にこなしていたように見えた。しかし、個人のレベルが問題である。特に内野手は、土のグラウンドを想定した捕り方をしていたのは宮本ぐらいで、後の野手陣は人工芝用の捕り方でプレーしていた。強化試合では西岡が2つのエラーと判断ミスを犯してピンチを招き、得点を与えた。こういうシーンが北京で出なければいいのだが。
短期決戦ではプレッシャーもかかる中、投手陣は決して調子がいいとは言えず、ミスで足を引っ張る形だけは避けたい。ミスが出れば、あの強化試合第2戦の1イニング10失点という失態を繰り返さないとは言えない。
私もマイナス志向になってしまっているが、安心して送り出してあげるだけの材料がなかったのが気がかりだ。
アテネの時はイタリアでキャンプを張った。一週間という短い期間ではあったが、周りはイタリア語で話し、日本語を使える状況は選手間、スタッフ間だけであった。そのため、チームの和、意思の疎通といったものが育まれた。そういった意味では海外でのキャンプは良かったと思う。今回は日本でのキャンプなので、練習後、外に食事に行く者もあり、選手間の和や意思の疎通がアテネの時よりはできていないように思う。
監督もそういったところは随分悩まれたみたいで、海外に出るかそれとも地方でやった方が良かったかと、最後の最後まで悩まれていた。
この和を作るのにやはり相当な時間がかかるのは私も経験をした上でわかる。また、どんなに一流の選手を集めたとしてもこの和がなければ相手に勝っていくことはできないと断言してもいいだろう。現地に入ってから、本番まで3日間。この3日間をどう過ごしていくかが勝負の鍵を握る。
また、現地に入りオリンピック一色の街に入ると、緊張感や気も入ってくるだろう。そこで嫌なイメージを払拭できるかも大事である。
やはり勝負事には勢いが大事で、勢いをつけるためにはいい結果を残していいイメージを持つことが大切だ。それを持てないのが一番問題なのだ。ファンの方々も、あの強化試合の内容では、勢いを感じることは難しかったかと思う。
しかし、一流の選手とは、切り替えが早いのだ。切り替えの早さは、一流と二流を分けるラインだと言ってもいい。ピッチャーで言えば、ブルペンで突然「これだ」というボールが見つかることがある。ボールへの慣れも、コツ一つで慣れることだってある。
あとは精神的な部分だ。プレッシャーは相当なものだと思うが、それでもプレッシャーに打ち勝つのが一流である。今回選ばれた24人、誰もが一流の選手だ。その一流が集まった軍団だけに、目標さえ失わなければ、必ずいい結果がついてくると私は信じている。帰ってくる時は満面の笑みで首には一番いいメダルということを期待している。
チームというのはいい状況からよりも、苦境から始まったほうが危機感があっていい結果が出やすいという風に敢えて言っておこう。
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