イギリスGP直前の6月18日深夜。F1チームで構成するFOTA(フォーミュラワン・チーム・アソシエーション)が「新しいシリーズを立ち上げる」という発表を行ない、現在F1は分裂の危機に直面している。なぜFOTAはF1を統括するFIA(国際自動車連盟)と対立しているのだろうか。山科忠チーム代表に代わってFOTA会議に参加した木下美明TMG(トヨタ・モータースポーツGmbH.)副社長がシルバーストンで緊急記者会見を行なった。
--ついに分裂が現実のものとなりました。
木下美明TMG副社長「会議が終わったのは午前1時すぎ。本当に残念な結果です。別の選手権を作ることなんか、会議に参加している全員が望んでいなかった。先ほどFIAの公式会見でロス(・ブラウン/ブラウンGP)やクリスチャン(・ホーナー/レッドブル)が語っていましたが、私たちの気持ちとまったく同じで、とてもいい会見だったと思います。今回の問題は、FIAが打ち出したバジェットキャップ制に自動車メーカーが反対しているとか、メーカーの横暴だとか誤った見方が広がってます。しかし、最大の論点は、F1におけるガバナンス(民主的合意による統制)の欠如。F1のレギュレーションをめぐって、ここ数年ずっと迷走を続けている状態を何とかしたいんです」
--現状はどのようになっているのですか。
木下「いわゆるコンコルド協定は、収益金の分配などの商業的な部分がクローズアップされがちですが、実はあの協定の本質は、FIAと興行を取り仕切るFOA(フォーミュラ・ワン・アドミニストレーション/F1統括会社)、そしてチームの三者によるガバナンスをどうするかという契約なんです。ところがもその協定が現在失効したままでいるため、さまざまな問題が起きている。だから、技術的なレギュレーションを変更する際、本当は1月1日を2度経過しないと執行できないという条文が厳然とあるのに、使われていない。あるいは国際スポーツコードにあった「F1に関しては、レギュレーションを変更する場合、2年間の猶予期間を設けること」という条文が、いつの間にかごっそりなくなっている。このような状態だから、今はFIAが決めたら、すぐに変更されてしまっている。例えば、FIAが今日『来年から4駆にする』と決めたら、我々はそれに間に合わせたクルマを作らないといけない。こんな状態が、ずっと続いているんです」
--エンジンの変更もそうですか。
木下「そうです。10気筒から8気筒への変更はまだ許せるとして、そのあと3年(開発を)フリーズする。いや、4気筒ターボにする。やっぱり10年フリーズする。今度は、6気筒ターボにする。そして最後に5年フリーズすると、1年間に5回も変えてきた。KERS(運動エネルギー回生システム)も、そう。もっと役に立つシステムにして、しかるべき時期に導入すればよかったのに、FIAが急いだため、チームの財政負担は大きくなった。うちは2ケタ億円まで使わずに済んだけれど、一番使ったところは70ミリオン(ドル/約70億円)使ったって聞いています。にもかかわらず、役に立たず、もうほとんどのチームが使っていない。この状況を改善するため、来季参戦の条件に我々チーム側は『三者による新コンコルド協定調印』を入れたんですが、(FIAは)認めないというんです。だったら、しょうがない。我々も妥協点を探ろうとずいぶん努力をしたのですが、ダメでした。結局、FIAから最後に出てきた妥協点は例えば、『来年はやっぱり4駆はやめる』とか、レギュレーションの細部をいじってきただけ。しかし本質は、そうじゃない。我々は虫けらじゃないということを認めてもらいたかった。でも、結局わかってもらえないので、私たちはF1を去る覚悟を決めたんです。夜中の1時ごろだったにもかかわらず、新しい門出に乾杯しようと、FOTAのみんなでシャンパンで乾杯して別れました」
--新シリーズを立ち上げるにあたって、現在のFIAとFOAに代わるものは何か準備しているのですか。
木下「いえ、まだ決断してから24時間経っていないですからね。それにFOTAメンバーは全員、FIAが歩み寄ってくれて問題が解決することを望んでいますから。その可能性は、今でもあると信じています。世界モータースポーツ評議会が来週開かれますが、その内容次第ですね。でも、根本的な改革が望めないのなら、(新シリーズ立ち上げは)最悪の選択肢を取るしか仕方ない。私はアメリカでチャンプカーとIRL(インディカー)が分裂したときレースをやっていたので、2つにシリーズが分裂したときの混乱は経験しているし、その先がどうなるかというのも大体予測がつく。でも、今となっては仕方ない。本当は分裂なんかしたくない。私たちトヨタはまだF1に参戦して10年未満の経験しかありませんが、20年、30年とやってきたチームの人たちのF1への思い入れは非常に強いし、F1という名の下でレースをしたいという気持ちも強い。日本人が、日本人でありたいというのと似ているかもしれません。それだけ長い歴史のあるF1をつぶしたくないから、みんながこんなにも我慢してきたんですけどね」
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『イギリスGP注目会見』F1新シリーズ設立表明への舞台裏
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